以下,これまでに学生(受験生含む)やその保護者の方と接してきて,なんとなくお伝えしたほうが良いかなと思う部分を取りまとめました.
1)中等教育と高等教育の接続の話
初等中等教育と高等教育との接続の改善について (答申) において以下の記述がある.
初等中等教育と高等教育との接続の改善について (答申) (中央教育審議会 文部科学省)
- 初期中等教育は,「自ら学び,自ら考える力」などの『生きる力』の育成」
- 高等教育は,「主体的に変化に対応し,自ら将来の課題を探求し,その課題に対して幅広い視野から柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる力(課題探求能力)の育成」
後期中等教育(高校)は多様で,だれもが同じ格好で高等教育に接続できているか定かではありません.大学に入学するには選抜入試(試験問題)でパフォーマンスを発揮しなくてはなりませんが,そこでは正解の一意性が担保されている世界です.
社会の中では妥当な選択(≒正解)が常に一意性を持つのか定かではありません.ベースとなる知識の獲得度合いを大学入試で図っているとすれば,入学後はその知識を状況に合わせて展開させることが出来るかが問われます.故に,学習スタイルが中等教育までの延長線上で良いはずがないのですが,大学入試の成功体験の影響に思いますが,それまでのスタイルを変えずに押し通そうとする学生さんが一定数存在しているのではないかと思っています.特に情報を詰め込むことで中等教育を乗り切った方は,自身の知識として整理することを日ごろから意識しておかないと,いずれよろしくない状況に陥ると思っています.
以下は,入学された学生さんに実際にお話ししている内容です.
教養教育の目的は知の日常化
— めどぶぶ (@medbb) 2016年4月5日
(よりよい医療に貢献する医療情報技師の役割 より)
<参考>
取り上げた報告書は,上記リンクの中の ●調査室報告書シンポジウム2020報告書(14MB)になります
2)将来に関して医学生の認識の怪しそうな部分(キャリア形成)
帰属意識といえば一般的には会社に対するものなど運営母体に対して持つ形が想定されるように思います.しかしながら医療専門職は専門領域に対する意識が運営組織に対するものより大きいように思います.特に医師の場合は医局という専門職集団に帰属することによりキャリア形成を鑑みた上で医療機関への派遣(入職)が行われてきました.
医局については,「何?」「病院の詰所のこと?」「大学の○○講座のこと=医局?」などフワッとした感じで理解している方も多いように思いますし,私自身関わるまで良く分かっていなかった部分です.大学の講座には教授をはじめとする教員および大学院生などが所属しており,附属病院では講座と対応する診療科で講座教員のほかに診療科所属の医師(医員など)が勤務しています.医局(専門職集団)に所属する医師のことを医局員と呼ぶようです.
「医局人事」と聞くと定年退職するまで人事を握られているのではないかと思われそうですが,そのような人事は卒後15年~20年まででその後は管理職として運営組織への帰属にシフトしていくような格好となっています.私の良く知る例を思い出すと概ね40歳までに医局人事による異動は終わり,その後は開業や医療機関の管理職として組織の運営に携わる格好になっていました.そのため定年退職まで一つの医療機関に勤務するというケースは無い(だろうと思いますが ありえるのかな?)
以上の事から勤務医の平均勤続年数は他業種より短くなりますが,給与水準が他業種よりも高く退職金などについて著しく不利ということでも無いようです.
<参考資料>
3)最近の大学生の学修に関する傾向
大学生がどのように学修しているのか,保護者の方も大学教員も自身の感覚とは異なるところがあり,測りかねる部分もあるように思います.逆に学生は保護者や教員の感覚や意図を理解できない部分があるように思います.教員と保護者の視点で読み解いてみました.経年変化2008→16年を中心にみています.
<教員>
- グループワークなどの場での発言が以前よりも活発な傾向
- 授業の復習は以前よりする傾向(予習はあまり変わらないが)
- 興味を持ったことについて深めていく傾向が減少
- 自由な選択より系統立てて学びたい傾向
- 興味よりも楽に単位を取れる科目を好む傾向
- 知識や技能が身につかないのは大学の責任と思う人が増加傾向(割合は低いが)
- 学修方法そのものを教えてほしい傾向が増加
経験上頷ける部分もあるという印象です.単位の取得が楽な方向になるのは,学生自分を振り返るとなんとも言えませんが,「楽」から「楽しく」になるような努力をしていくことで系統立てて学ぶことだけではく,探求することについて関心を持ってもらえればと思いました.
<保護者>
- 困りごとがあると保護者が助けてくれる恰好(小中学生の頃に保護者が助ける格好だと,傾向が強くなる)
- 保護者のアドバイスを聞きいれる傾向
- 進路などは保護者の意見を重視する傾向(割合は低いが)
幼いころは保護者がある程度手助けしないとなりませんが,その関係性は変わりにくいのかもしれません.以前より社会生活の中で様々な脅威が迫っているように思いますし,そこからご子息を守ることを第一に考えると,この傾向は当然の事にも思います.2022年4月1日から成年年齢は18歳となりました.大学教育の中で成人としての自覚を促す必要も感じています.この点は特に教員が寄り添うにも立ち入れない部分が出てくると思いますので,保護者の皆様と連携しながら社会で活躍できる学生の育成に繋がればと思っております.どうぞよろしくお願いいたします.
<用いた調査報告書>